働き方が多様化し、終身雇用に不安が募る現代では副業に取り組む方が増えています。そして副業で成果が出た方は、次に個人事業主として独立するケースも少なくありません。
一方、いざ個人事業主の登録を行う場合、どのようにすすめていけばいいか分からない方もいるのではないでしょうか。この記事では、個人事業主としてスタートする起業家のために、登録方法や必要な費用、事業を始める際の注意点を解説します。
個人事業主とは?

個人事業主とは、会社には所属せず、個人の名義で事業を営む人のことを指します。定義としては税法上の区分のひとつのため、所轄の税務署へ「開業届」を提出した人が法的に個人事業主として認められた人物ということができます。法人登記のような複雑な手続きや審査は、基本的に必要ありません。
フリーランスや自営業との違い
会社や組織に属さずに働くという点では、「フリーランス」や「自営業」といった言葉と似ています。フリーランスは会社に属さないという「働き方」を示す言葉で、法的な提議はありません。また、自営業は独立して事業を営む人の総称であり、個人事業主とともに、会社を設立している経営者も含まれます。
個人事業主になるための登録方法

個人事業主になる方法は、基本的には「開業届」という書類を税務署に提出するだけです。提出の流れは、下記の通りです。
1.税務署の窓口か、国税庁のホームページで開業届の書式を入手
2.必要事項を記入
3.窓口に持参、郵送、オンライン申請(e-Tax)のいずれかで提出
なお開業届は、「事業を開始した日から1か月以内」に提出するよう定められています。提出していなくても特に罰則はありませんが、確定申告と納税を行うためには、あらかじめ個人事業主として登録しておく方がスムーズになります。
開業届を作成する際のポイント
開業届に記入する内容のなかで、あらかじめ決めておいた方が良いポイントを紹介します。
- 納税地:自宅住所や店舗・オフィスなど、事業を行う主な活動場所
- 職業:ネットショップであれば「小売業」など、開業する事業のカテゴリー
- 屋号:ネットショップの名前など、決まっていなければ空欄
- 事業の概要:「アパレルアイテムのネットショップ運営」など、事業内容
- 届出書の提出の有無:「青色申告承認申請書」「課税事業者選択届出書」など、同時に提出する書類(各書類の詳細については後述)
- 給与等の支払の状況:従業員を雇う場合は、人数や給与の支払い方(月給・時給など)、税額の有無(源泉徴収を行うかどうか)、給与支払いを開始する年月日などを記載
開業届の提出先は、基本的に「納税地」として記載した場所を管轄する税務署となります。
開業届と同時に提出する書類
青色申告承認申請書
個人事業主には納税のために確定申告が義務付けられており、確定申告の手続き方法には「青色申告」と「白色申告」の2種類があります。簡単にいうと、青色申告は厳密に利益等の申告を行うため手続きが複雑になるものの、節税につながります。ただし、事前に「青色申告承認申請書」を税務署に提出する必要があるため、開業届と同時に提出しておくとスムーズになります。
従業員を雇用する場合の書類
従業員を雇用する場合は、下記3点の書類についても事前に確認しておきましょう。
- 給与支払い事務所等の開設・移転・廃止届出書:従業員を雇って給与を支払う場合に必要(開業届で「給与等の支払の状況」を記入した場合は不要)
- 青色事業専従者給与に関する届出書:青色事業専従者の要件を満たす家族従業員への給与を経費にしたい場合に必要
- 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書:従業員数が10名未満で、源泉所得税の納付を年2回にまとめたい場合に必要
事業開始等申請書
開業届が国税に関連した登録を行うための書類であるのに対して、事業開始等申請書は都道府県の地方税にあたる事業税の登録を行うための書類です。事業税を納める業種は70種が定められていますが、ほとんどの業種が当てはまると言っていいでしょう。ただし提出しておかなくても、確定申告を行うと都道府県税事務所が該当するかどうかを判断する手続きをしてくれるため、それを待つという方法もあります。
個人事業主になるための費用
個人事業主になるための費用は、基本的に0円です。法人を設立する場合のような定款認証や登記申請の手数料といった費用はかかりません。また提出書類に記入する内容もそこまで複雑ではないので、行政書士などに代行してもらう必要もないでしょう。そのため、個人事業主であれば完全な0円起業も可能です。
個人事業主に登録する際の注意事項

各種許認可の取得
個人事業主で行う業種によっては、営業するにあたって行政機関から許認可を受けなければいけないケースが多々あります。また業種によって許認可を申請する場所は異なるため、新しく事業を行う際は必ず事前に確認しましょう。
下記に、営業するにあたって許認可が必要な業種の一例をご紹介します。
- 美容業(美容院、まつげエクステサロンなど):保健所への申請
- 飲食業(レストラン・カフェなど):保健所への申請
- 自動車運転代行業(運転代行サービス):警察署への申請
- 訪問介護事業(訪問介護事業所など):都道府県庁への申請
- 職業紹介業(転職エージェント、人材バンクなど):ハローワークへの申請
個人事業主のリスクに備えた保険・共済制度の加入
会社員の場合に加入する健康保険と違って、公的医療保険制度の場合は傷病手当金などが含まれず、病気やケガで働けなくなった場合のダメージはとても大きいです。また厚生年金と比べると、国民年金制度は万が一の事態が起きた場合や老後の年金支給額が少なくなることも事実です。自身でリスクに備えておくための、民間保険や共済制度についていくつかご紹介します。
- 就業不能保険
- 所得補償保険
- 死亡保険
- 個人年金保険
- 小規模企業共済制度
- 火災保険・地震保険(店舗や事務所を持つ場合)
- 中小企業退職金共済制度(従業員を雇っている場合)
会社を辞める場合
会社員を辞めて個人事業主一本で働く場合は、社会保険として 国民健康保険・国民年金への加入が必要です。会社を退職した日から14日以内に、住所地の市町村役場で切り替え手続きを行いましょう。また健康保険については、勤めていた会社の保険を最長2年間、任意継続することもできます。
なお上記をはじめとした各種手続きを行うためには、退職時に受け取る書類の提示等が必要です。主に以下の書類になるため、大切に保管しておいてください。
- 雇用保険被保険者証:雇用保険に加入している証明になる書類
- 雇用保険被保険者離職票:失業保険を受給するうえで必要な書類
- 健康保険・厚生年金保険被保険者資格等取得(喪失)連絡票:国民健康保険、国民年金への加入手続きに必要な書類
- 年金手帳:国民年金への加入手続きに必要な書類
- 源泉徴収票:確定申告時に必要な書類
また個人用のクレジットカードを作成する場合は、会社を辞める前に手続きしておくのも有効です。クレジットカードの審査項目の1つに「安定継続収入のある方」が挙げられ、個人事業主より会社員の方が収入の安定を証明しやすいためです。
確定申告の対応
個人事業主として独立・開業し、売り上げから経費を差し引いた年間の所得が48万円を超えた場合は確定申告が必須となります。取引を帳簿に記録し、事業に使った経費を証明する領収書なども細かく保管しておく必要があります。正確に記録や申告ができなければ、支払う税金が高くなったり、ペナルティを課される可能性もあるため注意が必要です。なお副業の確定申告の対象となるのは、所得が年間で20万円以上の場合です。
事業用の銀行口座・クレジットカードの登録
法律上必須というわけではありませんが、事業用の口座とクレジットカードを開設しておくと経理や確定申告がスムーズに実施できるようになります。個人の口座と分けることで収支が明確になり、銀行口座に屋号がつくため顧客・取引先からの信用度向上を狙えるメリットがあります。
また事業に関わる支払いも専用のクレジットカードを用いることで、いつ・どこで・どれくらいのお金を使ったか履歴で残すことができ、経費を計上する際の漏れを防ぐことができます。
インボイス制度への対応
インボイス制度の個人事業主への主な影響は、消費税を納める「課税事業者」として登録するかどうかの選択にあります。売り上げが年間1000万円を超えると消費税の納税義務が発生するため登録は必須となりますが、1000万円以下であれば免税事業者でいることもできます。
ただし顧客が個人ではなく、取引先へ商品を卸したり下請けとして仕事を受注しているような事業の場合、注意が必要です。取引先にとっては、仕入の際にかかる消費税分の控除を受けられず、税負担が増えてしまうことにつながります。
そのため、インボイス登録してないと仕事が受注しにくくなったり、新規での案件獲得が難しくなる可能性は考えられます。事業内容や事業規模に応じて、慎重に登録するかどうかを検討する必要があるでしょう。
まとめ
手軽にビジネスを始めたい場合や、サイドビジネスが拡大してきた場合には、会社の登記や設立が不要な個人事業主という選択肢が最適となるでしょう。手続きも基本的には開業届を提出するだけとシンプルで、費用もかかりません。
ただし、場合によって必要となる書類や注意点をあらかじめ把握しておかなければ、手続きのために何度も税務署へ通う必要が出てくるなど、手間がとられてしまうかもしれません。また、税金や保険、リスクなどの面についてもしっかり理解しておくことが大切です。
また個人事業主としてEコマース事業を始めるなら、ぜひShopifyをご活用ください。
よくある質問
個人事業主になるために準備すべきものは?
個人事業主になるためには開業届の提出が必要です。開業届を提出する際の準備物は以下の3点です。
- 開業届出書
- マイナンバーカード(またはマイナンバーがわかるもの)
- 本人確認書類(マイナンバーカードがない場合)
開業届を税務署に提出する方法は?
開業届を税務署に提出する方法は、下記3通りです。
- 税務署に持参
- 郵送
- e-Tax
個人事業主の登録に費用はかかる?
個人事業主に登録するうえで費用はかかりません。
個人事業主がインボイス制度に登録しないとどうなる?
個人事業主のインボイス制度の登録は義務ではないため、法律等における罰則はありません。
一方で自身がインボイス制度に登録していないことで、取引先が仕入の際にかかる消費税分の控除を受けられず、税負担が増えてしまうケースが想定されます。そのため取引先によっては仕事が受注しにくくなったり、新規での案件獲得が難しくなる可能性が考えられます。
副業でも開業届を出して個人事業主に登録しないといけないケースは?
結論、事業所得に該当する副業は個人事業主の登録が必要です。一方で、雑所得の場合は個人事業主の登録は不要です。
事業所得か雑所得かは「本業として継続的に行なっているか」「一定以上の経済的規模があるか」などを踏まえて総合的に判断されますが、明確な基準はありません。開業届を提出したからといって、必ず事業所得になるわけではない点に注意しましょう。
文:Ryutaro Yamauchi